新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る奨学金制度に関する要望

2020年(令和2年)5月31日

愛知県 学費と奨学金を考える会

▼2020年10月7日更新
 新たに「追加要望」を掲載しました。本ページと併せてご覧下さい。

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 わたしたち「愛知県 学費と奨学金を考える会」は、愛知県内の学生・若者を中心に構成する任意団体です。わたしたちは、家庭の経済的事情により進学の機会が失われることなく、希望した進路に進むことができる社会をめざして、安心して利用できる奨学金制度の充実発展を主軸に、学費・入学金の負担軽減等も含めた制度改善を求める活動を行っています。

 今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、これまで外出自粛、時差出勤や在宅勤務の奨励、小中高等学校の休校措置、休業要請等の経済活動の縮小を伴う措置などさまざまな取り組みが展開され、5月中旬以降、新規感染者数が低く推移しています。こうした状況を受け、4月より発出されていた緊急事態宣言は5月25日をもってすべての都道府県で解除されました。一方で、第2波、第3波の懸念もあり、今後も予断を許さない状況が続きます。また完全な終息に向けては長期化することが予想され、緊急事態宣言の解除を以て直ちにこれまで通りの生活に戻るということはありません。

 こうした状況のもと、3月以降、多くの学生がアルバイトとして従事している飲食店・サービス業等を中心として、様々な職種において、営業時間の短縮や休業によるシフトカットが行われてきました。休業に対する補償がない場合には予定していたアルバイト代が得られないため、経済的に困窮する学生も出ています。

 また、大学等を卒業して、奨学金を返還しながら働いている人においても、会社の休業や収入の減少によって家計的に厳しい状態にあります。

 このままでは、これまでも経済的に困窮していた人は当然のことながら、なんとか奨学金を返還できていた人や、あるいはある程度余裕をもって返還できていた人であっても、突然の失業や休業、減収によって返還困難に陥る人が急増する危険があります。また、新規卒業者においては、就職活動に支障があったり決まっていた内定が取り消されたり、減収に加えて先が見通せない状態に置かれています。大学においては春学期の講義がオンライン授業の形態となっているところも多く、また学内施設の利用制限が続いており、学生の不安は募るばかりです。

 これらの状況は現在でも継続しており、緊急事態宣言の解除によって直ちに元通りになるものではありません。感染症の終息はもとより、この数か月間で大きな打撃を受けた私たち一人ひとりの生活や雇用などの復旧・安定化に向けては、長期的な視点で継続的な公的支援が必要不可欠です。

 在学生はもちろん、新入生、就活生、現在奨学金を返還している社会人にまで多大な影響が生じています。これらの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による学生や若者への影響を鑑み、わたしたちは以下のように対策を求めていくことが重要だと考えています。

 以下、特に記載がない場合、「奨学金」とは、独立行政法人日本学生支援機構の実施する奨学金制度(第一種奨学金制度(無利子)、第二種奨学金制度(有利子)、給付型奨学金制度)を指します。

 これから進学する人へ 

01. より多くの人が利用できる給付型奨学金制度にしてください。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は未だ感染収束の時期が見通せません。どれくらい収入が減少するのか、いつまで異常事態が続くのか分からない以上、学生やその家族の収入に基づいて将来設計を立てるのは困難です。収束に時間がかかればかかるほど、経済悪化に伴い親や学生本人の収入が減少し、進学や学校に通い続けることが困難になる人が増加する可能性が高いと考えられます。現在利用者の多い、貸与型奨学金制度は卒業後に返還していく必要があります。また、第二種奨学金制度では元本の返還に加えて利子がかかります。

 より将来が見通せない昨今の状況の中で、事実上の借金である貸与型奨学金制度を利用し、借りたお金を返していけるのか、という不安は平時より高まります。平時であっても、将来の返還能力を見通すことが難しい高校3年生の段階で、貸与型奨学金制度の利用を決断することは大きな不安を伴います。こうした緊急事態のもとで、借りて返す形の貸与型奨学金制度では、学びを奨める支援制度として不十分です。給付型奨学金制度は2017年に新設されましたが、厳しい年収制限により対象者が選別されており、極めて限定的な運用となっています。

 さらに、大学等独自でさまざまな学生支援施策を講じているところもありますが、その内容や程度はそれぞれの大学等の規模や財政力によって異なります。学生支援を各大学等任せにしてしまっては所属する大学等の規模や財政力によって学生が受けられる支援に差異が生じてしまうこととなります。学校間の財政的格差が学生の学習機会の格差とならないよう、こうした観点からも普遍性のある公的制度としての給付型奨学金制度の拡充は急務です。

 給付型奨学金を拡充して対象者を増やし、受験を控えた高校生が安心して自分の進路に挑戦できるように、これから進学する人が経済的な理由で進学を断念することがないように、そして、現在大学に通っている人がこれからも安心して学び続けられるようにしてください。

02. 奨学金制度の予約採用で不採用になった高校生等に対し、入学後の在学採用についての周知を徹底してください。

 現在、予約採用にあたっては2019年度(平成31年度・令和元年度)の所得での判定となっています。つまり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって減収した分は判定に加味されません。高校3年生が進路を選択する時、学費がいくらかかるのか、それをどうやって支払うかは重要な判断基準です。奨学金の採用合否によって進学するかしないか判断する場合もあります。予約採用で奨学金が不採用になっても、2021年度(令和3年度)に在学採用を申し込む場合は、2020年度(令和2年度)の所得での判定となるため、今回の事態による減収が加味された判定となります。

 今年度の予約採用時において判定に使用される所得は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により減収した分が加味されていないことを高校生等に対して周知してください。また、在学採用の存在を高校生等に対して周知してください。

 在学生で、この影響により奨学金制度の利用あるいは増額を検討している人へ 

03. 現在大学等に在学している学生についても利用できる奨学金制度を拡充してください。

 これから進学する高校生へはもちろん、現在大学等へ通学している学生に対しても同様に支援を行ってください。有利子の第二種奨学金制度では卒業後長い期間にわたって多額の返還をしていく必要があるため、大きな負担となります。給付型奨学金制度及び無利子である第一種奨学金制度のさらなる拡充を以って、できるだけ将来の枷とならない支援策を講じてください。

 また、憲法および教育基本法に定められている「教育の機会均等」の理念に基づき、要件を満たすすべての学生が滞りなく奨学金制度を利用できるようにしてください。

04. 奨学金制度の在学採用において、家計急変に該当しない学生に対しての通常の在学採用の受付期間を延長してください。

 家計急変の際の在学採用は随時受け付けているのに対し、家計急変の対象とならない学生が利用できる通常の在学採用は、4〜6月に限定されています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は未だ収束が見えず、様々な地域、分野に影を落としています。

 また、緊急事態宣言が解除されたり、収束が見えてきたりしたとしても、生活、雇用、経済などの状況が復旧、安定するまでには時間がかかり、影響の長期化が予想されます。こうした状況から、6月以降であっても奨学金制度の利用を希望する場合に随時申し込みができることは重要な支援になります。また、ほとんどの講義をオンラインに切り替えている大学も多く、従来のように学内で奨学金利用説明会等を開催するなど、奨学金制度の申請・利用にあたって学生に対する十分な説明を行うことが難しい状況があります。通常の在学採用の受付期間を3ヶ月という短期間に限定せず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が完全になくなるまで延長するなどの対応をはかってください。

 いま、通学している人へ 

05. 学費の延納・分納制度を学生にしっかり周知してください。これらの制度がない場合は整備し、またこれらの制度が限定的である場合には、要件を緩和する等必要な制度の改善を行ってください。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は一部の人々にとどまらず、生活への影響は計り知れません。今回の事態によって、親の収入の減少や、学生本人のアルバイトが減少した結果、学費の支払いが困難となる可能性があります。そのため、学費の延納・分納や減免等に柔軟に対応してください。また、それらの延納期限や分納回数に制限がある場合、期限の延長、回数の増加等の制度の改善を行ってください。延納や分納の制度がない場合は、制度の導入を強く求めます。

06. オンライン授業を実施するのであれば、情報機器に対する補助を実施するか、これを貸し出してください。また、通信料金に対する補助を行ってください。

 オンライン授業の実施に伴い、受講に必要となる情報機器の購入や、インターネット通信環境の整備にかかる費用に対して補助がない場合、学生にとっては大きな負担となります。学費の納入に合わせて、PC及びWEBカメラやマイク、スピーカー等の購入、さらには設備整備の必要がなくとも通信環境の確保に対する費用を支出するとなると負担が増大します。

 一部の携帯会社では、25歳以下の利用者に限定して一部通信量の軽減措置が行われていますが、学生が多く利用する格安SIMにはそういった措置がない会社があったり、あるいは学生の年齢が26歳以上であったりする場合には適用されません。オンライン授業の実施に際しては、学生の環境を調査する等実態を把握した上で、これら学生の経済的負担の増加に対して必要な補助を行ってください。

07. 学費のうち施設利用費、設備費等を徴収している大学はこれを返還してください。または学生支援策として学生に給付・還元してください。

 緊急事態宣言の発出に伴い学校施設等への立ち入りが禁止されてきました。図書館や研究室、自習室、PCルーム等の施設利用やそれに附帯するサービスの停止により、本来であれば学費の納入と引き換えに得られる学習や研究の機会が奪われています。また、講義をオンラインで行う場合、学生は学舎を利用できなくなります。

 学業に適した環境が確保されていない現状を踏まえ、施設利用費、設備費等の設備やサービスに関わる費用を徴収している場合は返還してください。返還が困難である場合は、学生の学習環境の確保のためにすべての学生に一律に給付する等、支援制度として還元してください。

08. 秋学期以降の授業料を一定額減免してください。また、政府はこのための予算措置を講じてください。

 アルバイトでの収入によって、当座の生活費をまかっているのみならず、半年ごとにある授業料の納入へ向けて貯金をしている学生がいます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、アルバイト先のシフトカット、時短営業、休業等が起こり、経済的に困窮する学生が生じています。このままだと、授業料分の収入が確保できないうちに秋学期の授業料の支払いの時期がやってきます。アルバイトの収入の減少は生活に窮するのはもちろん、授業料に必要な金額が用意できない状況へ直結するのです。

 学生へのより長期的な支援策として秋学期以降の授業料を一定額減免してください。かかる費用については各大学等の負担とするのではなく、政府として予算措置を講じ、これを補償してください。

 10月から返還を開始する人或いは現在返還中の人へ 

09. 災害事由による返還期限猶予の認定(通常猶予に含めない猶予)をしてください。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は我が国にとどまらず、世界に影響を及ぼしています。国内においても類を見ないウイルス災害であり、この新型コロナウイルス感染症(COVID-19) が国内に蔓延している現状は、緊急事態です。今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、さまざまな業種・職種において経済活動の休止や規模縮小を余儀なくされ、休業・失業・減収等が発生しています。

 このような非常事態によって、救済制度を利用したことが将来の救済制度の利用に不利益をもたらさないよう、10年間の上限年数が設けられている経済困難事由による返還期限猶予ではなく、上限年数に換算しない猶予を認めてください。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大している状況を災害と認識し、災害事由による返還期限猶予を認定してください。